2022-12-08 22:30:00

『一つ先の駅』

 歩道いっぱいにイチョウの落ち葉が敷かれていた。その鮮やかな黄色に足を取られないように注意しながら、一人並木通りを歩いた。少しかしこまった靴を履いて来てしまい、後悔した。

 

 ただ、通りを抜けて駅前に出ると、歩きやすさに促されるように、少し気分が変わった。昨日よりいくらか陽気が良かったのも相まって、電車に乗らずに、歩き続けた。

 

 今日は朝から、あまり歓迎できない連絡や出来事が幾つか重なって、天候とは裏腹に、晴れやかな気分にはなれずにいた。

 

 大将に、辣油を買ってきて欲しいと頼まれていて、時々、担担麺を食べに寄る中華屋さんに来たのだけれど、中途半端な時間になってしまったところに、曇った心持ちが上塗りされて、何もいただかずに辣油だけ買って店を出た。そして一人並木通りを歩いて、駅に戻っているところだった。

 

 その中華屋さんは、担担麺がとても美味しく、地元では評判の店で、昼時には列が出来ている。大将と僕は、担担麺もさることながら、レジの横で瓶詰めで売られている香り高い辣油が好きで、来店の度に買って帰っていた。

 

 春先はよく、大将がその辣油と筍で、ピリ辛の穂先メンマを作ってくれる。これがまた、いいアテになり、紹興酒はもちろん、ビールやハイボールがすすむ。冬には何を作るのだろう。まぁ、何かしら美味しいアイデアが浮かんだのかもしれない。

 

 その辣油を二瓶持ちながら、久しぶりに歩く、一つ先の駅への道は新鮮だった。様変わりとまでは言わないけれど、何軒か店が変わっていて、何軒か店が閉まったままだった。

 

 昔は頻繁に歩いた道だった。本当によく歩いた。楽しい思いだけでなく、少しだけ胃がジリジリとすることや、胸の奥の方が騒がしかったことも、踏みしめるこのアスファルトに溶け込んでいる。

 

 先程までとは打って変わって足が軽くなった気がした。心なしか、アップルミュージックでランダムに流す音楽は、アップテンポの曲が増えて、辣油をぶる下げた袋も、大きく揺れた。

 

 何度か行ったことのある美味しい鉄板焼き屋さんを越えて、混み合う携帯ショップを横切り、横断歩道の前で止まった。傍らにあった、ボリューム満点のラーメン屋さんが、お洒落なジェラート屋さんに変わっていた。

 

 信号が変わり、横断歩道を左折した。駅前のロータリーに差し掛かった。真っ直ぐ進み続ければば、春には600本の桜が咲き誇るさくら通りに抜けるのだけれど…

 

 袋を強く握った。筍の穂先メンマに、桜…

 

 始まったばかりのこの冬に、気が早すぎると叱られるかもしれないけれど、歩いてきた一つ先の駅への道のりが、一つ先の季節に続いているような気がした。

 

 後ろ髪を引かれながらも、真っ直ぐ進まずに、駅へと向かった。

 

 すっかり日が暮れていて、ホームを吹き抜ける風は、確かに12月のそれだった。

 

  そして、いつもの電車に揺られた。耳元から、ベースの音が物足りない、静かなバラードが流れた。袋の中で、瓶がカチカチとぶつかった。

 

 

 

2022-12-05 22:30:00

『冬の夜』

 駅のホームから覗く冬の夜空には、笑顔一つ無かった。なるべく無感情を装って、でも丁寧に、一定のリズムで冷たい雨を落としていた。

 

 僕は駅の中にある小さなコンビニエンスストアで、買い物を済ました。少し後ろめたかったけれど、ビニール袋をお願いして、頼まれていたペットボトルの濃いめのお茶とノンアルコールのウエットティッシュと単二の電池と、そして何となく手に取った当たり障りの無さそうなビターチョコレートを入れてもらった。

 

 ひどく冷えてきた。マフラーを顎先まで引き上げた。腕時計を見ると、まだ十分に時間はあった。「単二の電池なんて何に使うんだろう?」そう、ぼんやりと考えながら、いつもの道を歩いた。

 

 空は、相変わらずだった。

 

 家までもう少しというところで、傘も差さずにペダルを漕ぐ若い男の子の自転車が、すれ違いざまに、僕のコートの左袖と手に持つビニール袋を濡らした。

 

 ハンカチでコートに飛んだ水しぶきを払った。袋の中は濡れていなかった。

 

 マフラーを巻き直して、もう一度、空を見た。足元も見て、辺りも見回して、道の先を見つめた。

 

 ただ雨が降るだけの、どこにでもある冬の夜だった。何の意味も持たない、どこにでもある冬の夜だった。

 

 それでも、人によっては、少なくとも僕にとっては、大きな意味を持つ、とても重要な夜になる。もちろん、まるで不要な夜だと言う人もいるだろう。それは人によって異なる。例えば、単二の電池が必要な人もいれば、そうでない人もいるように。

 

 家に着いて、濡れたコートを脱いだ。部屋の中でも、一定のリズムで雨音が聞こえる。ただ、このリズムのまま時が流れ続ければ…もう間もなくだ。もう間もなく、高らかに笛が吹かれ、どこにでもある冬の夜が、人によっては、僕にとっては、重要な夜の始まりとなる。

 

 そして、最後に長い笛が吹かれた時、それは、どこにもなかった、見たこともなかった、特別な夜になっているかもしれない。

 

 ビターチョコレートを一口噛んだ。まるで苦くない。むしろ…甘かった。

 

 

 

2022-12-04 22:30:00

『コミットメント』

 

 今日から、Facebookページをスタートした。まぁ、ページ自体は6月ぐらいに開設していたのだけれど、放置してしまっていて…そして、スタートしたと言っても、今のところ、Instagramの投稿をシェアするという形なのだけれど…

 

 だから、シェアされたこの投稿を、いきなりFacebookページだけで閲覧する方がいたとしたら、「???」となるわけだけれど…申し訳ない、勝手ながら、そこはご容赦願いたい。

 

 いずれにしても、Facebookページをスタートした。

 

 Instagramも始めて二週間程度で、正直、まだままならない。Twitterも未だに、覚束ないところが多々あって、フォロワーさんにも相変わらずご迷惑をおかけしてしまったり、申し訳ない状況に変わりはない。それでも…別のことを始めてしまった。

 

 どうしてだろう?

 

 サッカーボール一つで、世界中の誰とでも友達になれるように、平八の鰻の画像一枚で、それが“UNAGI”となって、興味を持った地球の反対側に住む見知らぬ誰かと、関わりを持ち、それが広がり…なんて大それたこと考えているわけではない。

 

 ただ、“関わりを持つ”ということに、何かしらを感じているのかもしれない。

 

 何かから離れるという原義での、そして無関心に近いニュアンスでの「デタッチメント」よりも、人と人との関わり合いというような意味合いでの「コミットメント」に、自分の中にある何かしらが惹きつけられているのかもしれない。そのための可能性やきっかけを、少しでも大きく広げていたいのかもしれない。

 

 それがこの時代や社会の変化によるものなのか、経済環境や飲食業界の変化によるものなのか、或いは、年齢を初めとする、僕自身の個人的な問題なのかはわからない。どれも違うかもしれない。

 

 ただ、「コミットメント」…それに何かしらを感じている。

 

 まぁ…もっと気楽なもののはずだけれど。

 

 いずれにしても、今日からFacebookをスタートした。TwitterもInstagramも、僕なりに、『平八』として、大切に続けていきたい。

 

 いつか、平八の鰻が、“UNAGI”となるその日まで(笑)

 

 なにはともあれ、皆々様、Twitter、Instagram共々、平八のOfficial.Facebookも、これから紆余曲折あるかも知れませんが…何卒宜しくお願い申し上げます。

 

 

 

 

2022-12-03 22:30:00

『簡単な土曜日』

 昨夜は深い時間まで、戴き物の紹興酒を飲んでいた。いつもより、少し酔った。

 

 ここのところの寝不足と相まって、今朝は普段より遅くまで寝ていた。まぁ、睡眠負債の返済を考えて、そうしようと思っていたのだけれど…

 

 ベッドを出ると、妙に頭がスッキリしていた。

 

 買い替えて間もない、デロンギの新しいコーヒーメーカーで、友人からシンガポール旅行の土産にもらった、ラッフルズホテルのコーヒーを入れた。

 

 スポーツ新聞にざっと目を通してから、コーヒーを飲んで、日経を読んだ。

 

 二杯目のコーヒーを入れて、Netflixで今週の『チェンソーマン』を視聴した。それから録り溜めていた一週間分の朝ドラ『舞いあがれ!』を観た。

 

 朝ドラを観たら、back numberの『アイラブユー』をフルコーラスで聴きたくなって、アップルミュージックで流した。ついでに『ヒロイン』と『クリスマスソング』を聴いた。

 

 気付いたら、半分ほど残ったコーヒーがすっかり冷めていて、時計は13時を回っていた。お腹も空いていた。

 

 いつも食パンを買っていたお店が先月末で閉店してしまって、ストックも残っていなかった。

 

 近所にある菓子パンが美味しい老舗のパン屋さんに行こうと、昨日までのストールではなく、今年初めて厚手のウールのマフラーを首に巻いた。

 

 外に出ると、そこはもう疑いようもないほど、12月だった。なんだか、空がキラキラしているような気がした。

 

 キラキラ?

 なるほど…ここまで筆にして、やっと気付いた。

 

 先日、Instagramで『キラキラ』と、12月をそう筆にした。

 

 それまでの、“戴き物の紹興酒”も“新しいデロンギ”も“友人のシンガポール旅行”も…

 

『チェンソーマン』や『舞いあがれ!』に、back numberの『アイラブユー』も、果ては“近所のパン屋さん”まで…

 

 先月までに、全てTwitterで何気なく文字にした言葉達だ。

 

 少し遅く起きただけで、何も変わらない、いつも通りの土曜日…

 

 やれやれ…

 日常とはそんなものなのだろうか?

 

 SNSで何気なく文字にするような言葉だけで、僕の土曜日は、簡単に出来上がってしまう。

 

 

 

2022-12-02 22:30:00

『1993年とブラボー!』

 薄明かりがアスファルトに溶け、窓から微かに漏れる朝…「ブラボー!」の雄叫びが、遠い中東の地から、日出ずる国にこだました。

 

 声の主は、サッカー日本代表DF長友佑都選手だ。今朝行われたサッカーW杯強豪スペイン戦の勝利後に、インタビューエリアでそう叫んだ。

 

 試合を中継したTV局のアナウンサーは、昨日発表されたばかりの「流行語大賞」に絡めて、「ブラボー、流行語大賞間に合うかな~?」と笑った。

 

 実際のところ、「ブラボー」は今回、時既に遅しで、残念だったけれど、今朝のスペイン戦の、或いは初戦のドイツ戦における、この“ブラボー”な結果は、1993年の「流行語大賞」抜きには語れないと、個人的には思っている。

 

 そう、その年のそれは『Jリーグ』だった。

 

 メキシコオリンピック銅メダルを初め、Jリーグ発足前から、日本サッカーの伝説もあれば、先人達もいる。今でこそ、サッカー日本代表選手の多くは、Jリーグではなく、海外の名門リーグで活躍するに至っている。

 

 それでも、1993年のスタートから、来年30周年を迎えるJリーグが、今朝の『ブラボー!』の礎を築き、道標となったと…感じている。今朝のドラマは1993年に始まっていたと…感じている。

 

 知らんけど(←今年の「新語・流行語大賞」トップ10に選出)ww。

 

 さてさて、来たる12月5日の日付変わって24時…ノックアウトステージ初戦となるクロアチア戦のホイッスルが鳴る。

 

 長友佑都選手は、「次はもっとどでかい声でブラボー言ったるからな」とTwitterにて予告した。

 

 次戦に勝てば、ワールドカップにおいて日本史上初のベスト8進出となる。

 

 新たな歴史が生まれるか…“ブラボー”以上の結果が出るか…

 

 1993年の流行語大賞が、29年の歳月と共に織りなす今を、日本サッカーの今を、雄叫びを必死に抑えながら、この日出ずる国にて…見守りたい。