2022-10-26 22:46:00

Vol.22『セレナーデ』

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少しだけ欠けた月が

10月の小さな夜に煌めいた

 

輝けなくても構わない

照らしてくれる

 

オーケストラの小夜曲が

タクシーの車内に響いた

 

立ち止まったっていい

連れ立ってくれる

 

信じ合う

委ね合う

そしていつか、分かち合う

 

月が並走していた

 

目を閉じた

タクシーがスピードを上げた

 

 

 

2022-10-05 22:22:00

Vol.21『ラストノート』

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地下鉄の階段を登っていると

突然、ムスクの香りが漂い

すぐに消えた

 

振り返っても

優しい曲線を描くなで肩と

壊れそうな小さな背中は

どこにもなかった

 

あの日

その香りのない道を選んだ

僕が

ラストノートを香ることはない

 

構わず階段を登り切った

街は仄かに

秋の匂いを纏っていた

 

 

 

2022-09-28 21:53:00

Vol.20『ダリアの嘘』

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空は

吐き捨てられた種無し葡萄の皮みたいな色をしていた

 

夕刻までいた喫茶店で

TVが昨日の映像を流した

喪服姿の人で溢れていた

 

レジの傍らに

造花のダリアが咲いていた…

 

店を出て

ロジェ・ヴァディムの言葉を思い出した

 

「貧弱な真実より華麗な虚偽を愛する」

 

もう一度、空を見た

 

 

 

2022-09-01 01:01:00

Vol.19『ひまわり』

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「ぼくらは決して大人を恐れやしないが、大人になった自分に対しては恐れを抱く」

 

あの夏の終わり

手に取った小説にあった言葉…

僕は二十歳になろうとしていた

 

あれから

幾重にも夏は秋に染まり

 

僕は今

何を恐れているのだろう?

 

答えのないまま

 

花瓶の中で

ひまわりが黄昏れていた

 

 

 

2022-08-24 22:44:00

Vol.18『花火とラムネ』

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何処かで花火が鳴った

 

「ずっと、こんな風に続いていく…」

友人が言った

ウチの店で飲んでいた

 

「ガキの頃、焼鳥を頂いて、ここでラムネを飲みながら…そう思ったんだ」

 

もう一度花火が鳴って

消えた

 

酔い醒ましにと

母に頼んだ

 

「ラムネを二本」

 

世界は…

一瞬と永遠で出来ている