改札まで送った
彼女は最後まで
“何か”を話さなかった
それで良かった
「急いじゃだめだよ」
彼女は頷き
「でも…休まないわ」と笑った
仲良くなったあの夏
彼女がよく口にしていた…
Without haste, but without rest.
急がずに、でも休まずに
改札の先で
新しい夏が始まっていた
クリスマス…
ある事情から
別の名で生きる少女が
彼に贈ったプレゼントは
本当の名前だった…
そんな映画を観たことがある
名前とは大切なものだった
SNS時代
互いにそれを知らないまま
繫がっている
代わりに
何を贈れるだろうか?
探そう
名前を知らない誰かに
想いを馳せて…
熟れるような電車内で
男の子が僕を見ていた
彼は
ヨット柄のTシャツに
シアサッカー地の半ズボン姿で
座席の下には
空色のサンダルが並んでいた
すぐに飽き
彼が窓に向き返った瞬間
首筋を走る汗が光に反射した
夏だった
夏が僕を捉えた
ジャケットを脱いだ
電車は目的地へと急いだ
ラガーマンだった
とは言っても
小学生の頃
スクールに通っていただけだ…
7月9日の夜
録画したラグビーの試合を見た
ただ
前日の記憶が
ずっと目の前を覆っていた
いずれその記憶にも
ノーサイドの笛が吹かれる…
震える右手で
ウィスキーを飲んだ
バッファロー?
それがどうした
カーラジオがサザンを歌った…
先々週
伯父の法要があった
暑い1日で
こっちの水は甘いぞと
お斎でビールを飲んだ…
「親父と同じ誕生日だったよな?」
ハンドルを握る伯父の長男が言った
僕が頷くと
「夏男か」
そう笑い、ネクタイを緩めた
涙見せぬように〜
サザンの歌が木霊した