2023-03-26 22:30:00

Vol.50『これからも、ずっと』

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 雨が、この街の春を濡らしている。時に激しく、時にしっとりと、濡らしている。

 

 ここ数日は天気が崩れ、誰にも知られたくない秘事でも必死に洗い流すように、雨が振り続けている。

 

 

 お陰様で、今日は一日中、家の中に居たのだけれど、昨日はプライベートの所用で、雨の中、夕方から家を出た。

 

 パテントレザーの靴は充分に雨を弾いてくれたけれど、コットンのトレンチの肩口に、駅までの僅かな時間で、少しだけ雨が染みた。

 

 なんとなく憂鬱な気分になって改札を抜けると、階段を降りる前に、淡く優しい色の花が目に入った。

 

 線路が見渡せる窓際で、それは花器に生けられ、飾られていた。

 

 窓の外は雨に濡れている。ガラス一枚隔てたこちら側で、淡く優しく、そのピンク色は咲き誇っている…そこだけが、麗らかな春だった。

 

 僕は、何かプレゼントされたような、何か祝福を受けたような心持ちになって、湿った階段をゆっくりと降りた…

 

 

 

 

 …と、いう具合に、今日も拙い文章を、いつも通りに書き連ねているのだけれど…実は、文章はいつも通りでも、ある部分においては、今日はいつも通りではなく、特別と言えるかもしれない。

 

 まぁ、大したことではないのだけれど…

 

 

 とにもかくにも、僕は先日より、何かの気まぐれで、閉店に寄せて書いているこの文章に、ナンバーを付けることにした。

 

 そのナンバリングによれば、昨年の11月16日よりインスタグラムに投稿を始めてから、気まぐれに書いているこの文章も、今夜のこれで50番目ということになる。

 

 そして、今は、『今宵も、閉店に寄せて…』などと題し、インスタグラムだけでなく、フェイスブックとホームページの日記にも、同じ文章を載せており、その更新をTwitterにて呟いているのだけれど…

 

 Twitterからの連絡によると、一昨日の金曜日で、Twitterを始めてから、13周年…ということになるらしい。まぁ、きちんと?ツイートし始めたのは、この1年3ヶ月ぐらいのことなのだけれど…まぁ、一応、13周年は13周年ということで…

 

 というわけで、今日は、閉店に寄せて書く50番目の文章にして、Twitterの13周年を迎えてから、初めての『今宵も、閉店に寄せて…』の投稿ということになる。

 

 そう、いつも通りではなく、特別な投稿だ。

 

 まぁ、重ね重ね、大したことではないのだけれど…

 

 そして、おそらくは、すぐに何かが変わるということでもない。

 

 

 最近は、“今宵も”と謳いつつ、諸事情により書けない日も多い。“閉店に寄せて”と言いながら、閉店時間から大幅に時間が空いて投稿することがほとんどだ。そもそも、店とは何の関係性もないことを書き連ねているだけの文章だし…恥ずかしい限りだ。

 

 それでも、恥の上塗りでも、僕はまた、時間の許す中で、変わり映えのない拙い文章を、まとめきれないどうでもよいことを、長々と書いてしまうことだろう。

 

 その衝動を…今夜は言葉にするつもりはないけれど、しばらくは、続けさててもらうことになる。

 

 何かを終えて、何かを始めるのが春だ。ただ、何かを続けるのも、春なのだと思うから…

 

 

 

 いずれにしても、ここ数日のあいにくの天気の中、くしくも、地元の小さな駅の一角に、麗らかな春を見た。

 

 何かのプレゼントのような、何かの祝福のような、淡く優しいそのピンク色の花が、この文章の50番目を、その呟きの13周年を祝ってくれているとまでは言わない。

 

 ただ、確かなことが一つある。

 

 この文章も、その呟きも、僕も、そしてこの店も、過去ではなく、その花が咲き誇る今を、この季節を生きている。

 

 願わくば…これからも、ずっと。

 

 

 

2023-03-23 22:30:00

Vol.49『アノハルノヒ…』

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 桜の香りがした。あの日みたいだ。あの日も、同じ香りがした。

 

 読みかけの本を閉じた。目薬を点してから、すっかり冷めきったコーヒーを無理に流し込んだ。

 

 日が暮れかけていた。やっぱり、あの日みたいだ。あの、春の日みたいだ。

 

 

あの春の日…

あのはるのひ…

アノハルノヒ…

 

 

 

桜の香りがした

大きな空の下ではない

 

窓から飛行機を見つめた

 

桜の香りがした

小さな花瓶の淡い花

 

コーヒーを淹れる音がした

 

この今に在るために

奏でなければならない

 

この先を見るために

奏でなければならない

 

サヨナラとアリガトウの間で

例えばメロディを失っても

 

いいんだよ それでいい

想いを囁やけばいい

 

この世界をステージにして

静かに囁やけばいい

 

窓を開けた

春の音が響いていた…

 

 

 

 

黄昏時に染まった

小さな部屋の片隅から

 

終わりを告げるトワイライト

 

黄昏時に染まった

おぼろげに光る瞳には

 

去り行くはずの背中ひとつ

 

その右に在るために

描かなければならない

 

その先を行くために

描かなければならない

 

ゴメンネとアイシテルの間で

例えばモチーフを失っても

 

いいんだよ それでいい

心をなぞればいい

 

この時代をキャンバスにして

優しくなぞればいい

 

窓の外で

春の色が広がっていた…

 

 

 

 

メロディを失っても 何かを失っても

モチーフを失っても 誰かを失っても

 

この世界をステージにして

想いを囁やけばいい

 

この時代をキャンバスにして

心をなぞればいい

 

いいんだよ それでいい

いいんだよ それでいい…

 

 

 

 

ドアを開けた

僕の音が響いていた

 

ドアの外で

僕の色が広がっていた

 

桜の香りがした

黄昏時に染まった…

 

 

 

2023-03-19 22:30:00

Vol.48『100と1つ』Episode.3 fin

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 あとは、送信ボタンをタップするだけだ。

 

 それが、新たな一年を迎えた彼女に、そしてすぐそこに迫った新たな季節に届き、色を失ってしまったこの世界を再び鮮やかに彩ればいい。

 

 相変わらず寒かったけれど、風が何処からか、穏やかな香りを運んで来た。

 

 24時を回った。新しい一日が始まった。もう、迷わなかった。

 

 メッセージを送った。気の利かない言葉を贈った。

 

「どうかしている」声に出して、呟いた。

 

 同じ香りの風がもう一度吹いて、それをかき消した。

 

 もう、春のような気がした………

 

 

 

 

………「無糖のレモンサワーです」店員がすぐに、お酒を運んできた。

 

「まだ居る?」

 

「送って行くことは出来ないんだよね?」

 

「うん」と、彼女は頷いた。

 

「閉店まで居るよ。お陰様でお酒もツマミもたくさんあるから」と、僕は笑った。

 

「ありがとう」と言って、彼女は立ち上がった。

 

 彼女は、シンプルな白いタートルニットとデニムの上から、ダブルブレストのオーバーコートを羽織った。そのキャメル色が綺麗だった。ダークブラウンのストールを首にぶら下げた。

 

「101の1つ目を教えて」と、彼女は言った。

 

「1つ目は…」と僕は言った。

 

「1つ目は?」

 

 届いたばかりのレモンサワーを一口飲んでから、僕は言った。

 

「髪を短くしても…ボブも、似合うところ。僕は君のそんなところが…好きだ」

 

「何それ?それが1つ目?」そう言って、彼女はこの日一番の笑顔を見せた。

 

「でも…」と、彼女は言った。僕のプレゼントを掲げて、「これを付けた姿を見せれるように、また伸ばしちゃうけどね」と笑った。

 

「楽しみにしてるよ」と僕は言った。

 

「あとは、101番目だけでいいわ」

 

「えっ?」

 

「12時を過ぎたら、送ってね」と彼女は言った。

 

「送るって、文字に残すってこと?」

 

「そう」と彼女は頷いた。

 

「それは、恥ずかしいな」

 

「待ってるね」と、彼女はいたずらに笑った。

 

 僕の返事を待たずに、彼女はお財布を出した。僕が首を降ると、少し躊躇しながらそれをしまって、「ご馳走さま」と言って、頭を下げた。

 

「今年も楽しかった。ありがとう。」

 

 そう言って、店を後にした。

 

 

 

 僕の方こそ…僕も楽しかった…そう言う間もなく、彼女の、友人の背中は消えた。

 

 それだけじゃない。伝えたいことはもっとあった。いっぱいあった。ただ、あまりにも時間が足りなかった……

 

 

 

……レモンサワーを飲んだ。残った食べ物も、少しづつ、ゆっくり食べた。

 

 彼女が最後に注文したレモンサワーの二杯目を飲み始めた頃、スマートフォンを出して、空白のメッセージ画面を見つめながら、考え始めた。

 

 一番伝えたいこと。そして、彼女の好きなところ…

 

 色々な言葉が、思いが、おぼろげに浮かんでは消えた。

 

 ただ、決まっていた。本当は、初めから決まっていた。どうしても伝えたい言葉があった。

 

 家を出てくる前に見た、木瓜の花についた蕾を、たった一つの小さな蕾を思い返しながら、ゆっくりと、スクリーンの文字を滑らせた。

 

 

「お客様、そろそろ閉店のお時間となります。」店員が、申し訳なさそうに僕に声をかけた。

 

「わかりました。出ます。」と伝えて、店を見渡すと、客はもう、誰一人いなかった。並んだグラスも、半分残ったミートソーススパゲティも消えていた。

 

 

 

 手元のスマートフォンを見た。23時28分と表示されている。32分後、これを彼女に…34歳になった彼女に…

 

「どうかしている」と、口に出しそうになった。

 

 小さなスクリーンに、“101”という数字と共に、小さな文字が踊った。

 

「春を連れて来てくれそうなところ。」

 

 

 

 残りのレモンサワーを飲み干した。無糖と言われたけれど、なんだかほのかに、甘かった。

 

 新しい季節の味がした。

 

 

 

2023-03-12 22:30:00

Vol.47『100と1つ』Episode.2

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 大きな音ではない。ひょっとしたら、聞こえていないのかもしれない。でも…左腕の上で、左胸のような音で、腕時計の針が時を刻んでいるのが、この耳に届く…そんな気がしてならなかった。

 

 店内にはまだ、数名のお客さんがいた。広い店内の近場の席に固まっていた。

 

 若いサラリーマンらしき男性は、二枚重ねのハンバーグとライスを一心不乱に、まるで表情を変えずに食べていた。30歳前後とおぼしき女性は、ティーカップを持ったきり、飲むこともないまま、難しそうな顔でノートパソコンを睨んでいた。大学生ぐらいの男性二人と女性一人が、一言も喋らずに、三人それぞれに真剣な顔つきでスマートフォンを見つめ、スクリーンの上で滑らかに指を動かしていた。テーブルの上には、氷が僅かに残った空のグラスがズラリと並んでいた。小学校に上がったばかりぐらいの女の子が、母親らしき女性にもたれながら、寝息を立てていた。女性は何も食べずに、赤ワインを飲んでいた。半分ほど残ったミートソーススパゲティが女の子の前に置かれていた。

 

 誰の目にも、誰も映っていないような気がした…

 

 

 

 

「どうしたの?」と、彼女が言った。

 

 僕達は、三杯目のレモンサワーを飲んでいた。

 

「なんでもないよ」と、僕は首を振った。

 

「ねぇ…」と彼女は言った。「家からこのお店近いんでしょ?」

 

「まぁ、遠くはないけど」と僕は頷いた。

 

「でも、このお店に来たことないでしょ?」

 

「うん、初めてだね」

 

「やっぱり」と彼女は笑った。「ねぇ、ひょっとしてファミレスも初めて?」

 

「まさか。昔は、特に学生時代はよく入ったよ」と僕は言った。「ただ、お酒を飲むのは初めてかもしれない」

 

「へぇ」と言って、彼女はレモンサワーを飲んだ。「まずい?」

 

「いや、悪くないよ」

 

 彼女はポテトフライにケチャップとマヨネーズを付けて口に入れた。それを飲み込み、もう一度レモンサワーを飲んで、言った。

 

「そういう時は、『悪くない』じゃなくて、『美味しい』って言うのよ。特に、誰かと一緒に食べている時はね。」

 

「ごめん」と僕は素直に謝った。そして「美味しいよ」と言った。彼女の言う通りだった。僕がどうかしている。恥ずかしかった。

 

「うん。食べよ」と、彼女は笑った。

 

 僕はピザを食べて、彼女は唐揚げをほうばった。本当に美味しかった。

 

 

 

「あっ…」唐揚げを慌てて飲み込みながら、「100と1つとか言って、まだ、一つも貰っていないんだけど」と彼女が言った。

 

「あっ…そうだね。ごめん。」と僕が言った。

 

 彼女は、「ううん」と言うように首を振りながら、「でもそれって、なんて言っていたっけ?小説家の話?」

 

「うん」と僕は頷いた。「何だかある小説家に色々と質問をぶつけてみるみたいな内容の本で、『「私のどこが好きか100言って」と彼女に言われたら?』という質問に対して、その小説家が『「よしきた!」と、101並べるのが男です。』なんて答えていて…確か、そんな感じだったと思う」と僕は言った。「どうしてかな?僕には、その答えがスッと入ってきたんだ。そんなふうに答えることができたら、その女の子のことも、とても可愛く思えたりするんだろうなって…妙に気に入ってしまって、それで真似しているんだけれど…」

 

「うん。いいね…」と彼女は言った。「でもあの日、なんでいきなり私に、そう言ってくれたの?私、そんなに『ちょうだい、ちょうだい』って、欲しがってそうだった?」

 

 僕は首を振った。そして、残りのレモンサワーを飲み干した。

 

「君は、ひどく落ち込んでいたし、何だか自分を卑下していて、何より、自分の好きなところなんて一つもないって…そんな顔をしていたから」と僕は言った。「だから、僕が君の好きなところを100、いや、101言うよって伝えたら…君が笑ってくれて…」

 

「うん。嬉しかった。」と彼女は笑顔を見せた。「何しろ、人生最悪のバースデー・イブだったから…」

 

「まぁ、初対面で101は、実際はかなり無理があっただろうけど」と、僕が笑うと、彼女も笑った。

 

 僕はタブレットで、レモンサワーのおかわりを二つ頼んだ。

 

 

 

 あの日のあの言葉は、無理があるにせよ、嘘ではなかった。そんな予感がした。彼女の好きなところを、いっぱい見つけられそうな予感がした。そういう時間を長く過ごせたら…そう思った。

 

「ごめんなさい」と彼女が言った。「私、もう行かなきゃ」

 

 

 やっぱり…左腕の上で、左胸のような音がした。

 

 

 

 

 

……次回のVol.48『100と1つ』Episode.3に続きます。

 

 

 

2023-03-05 22:30:00

Vol.46『100と1つ』Episode.1

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 あと30分だった。でも、充分だ。残りのお酒を飲み干した。無糖と言われたけれど、なんだかほのかに、甘かった。ちょうどいい。

 

 もう少しだけ付き合ってくれ…そんな思いでコートを着て、店を出た。

 

 外は何かを諦めるにはうってつけなほどに冷えていた。空気も風も気を引き締め直すように、二月を、冬を、しっかりと演じていた。

 

 それでも、手が届くような気がした。手を伸ばせば、三月に、春に、届くような気がした。

 

 彼女のおかげかもしれない。33歳のままの彼女のおかげかもしれない。

 

 僕は、伝えなければならない。

 

 腕時計を見た。あと、25分あった………

 

 

 

 

………月曜日の22時過ぎに、家からほど近いファミリーレストランに向かった。

 

 “そこにいる”と、友人からメッセージがあった。そう伝えられただけなのだけれど…とにかく向かった。

 

 

 店に入ると、店員に来店人数を聞かれ、一人だと答えると、好きな席に座るように促された。

 

 客もまばらな店内を見渡すと、すぐに、一番端の席に座る彼女を見つけた。ただ、まるで雰囲気が違っていた。

 

 彼女も僕に気付いたようで、笑いながら、手招きをした。

 

 席に着くと、「久しぶり」と彼女が言った。僕も「久しぶり」と言った。

 

 そして、「来たんだ」と僕の目を覗き込みながら彼女が言った。僕はただ頷き、コートを脱いで、彼女の向かいに座った。

 

 

 テーブルの上には、山盛りのポテトと唐揚げ、そして、ピザが一枚と大皿のサラダが並んでいた。“来たんだ”と言うような量ではなかったし、どれも手が付けられていなかった。テーブルの端には、空のコーヒーカップが置かれていた。

 

 彼女は、やけに汗をかいたジョッキグラスで生ビールを飲みながら、「何か飲んで」と、タブレット端末を指差した。

 

 僕が少し戸惑いながら、タッチパネルで生ビールをタップするのを見届けると、彼女は左手を差し出した。

 

 僕が首を傾げると、彼女は右手で脇に置いた僕のコートを指差しながら、「ポケットが膨らんでたよ」と言った。

 

 僕は苦笑いをしながら、コートのポケットから箱を取り出し、彼女に差し出した。

 

「開けていい?」と彼女は言った。

 

「もちろん」

 

 彼女は、丁寧にリボンを取り、包装紙を剥がした。そしてゆっくりと箱を開けた。

 

「アレクサンドル ドゥ パリ…」と言って、「ありがとう。可愛いいね。」と笑顔を見せた。

 

「ごめん」と僕は謝った。

 

「どうして?」と彼女が驚いた。

 

「髪を切ったなんて知らなかったから…」

 

「あぁ」と彼女は笑いながら、「全然大丈夫。また伸ばすつもりだし」と笑った。

 

 彼女の髪は、肩より短く切り揃えられていた。僕が渡したのは、ヴァンドームクリップという、10.5cmの大きなヘアクリップで、背中まであった長い髪をアップする時にでも使ってもらえればと思って…用意したものだ。

 

「ねぇ…ちゃんと言って」と彼女は言った。

 

「それじゃあ、一日早いけれど…」と僕が言ったところで…間が悪く、店員がビールを運んで来てしまった。

 

 彼女が吹き出し、僕も笑った。

 

「改めて…」と言って、僕が運ばれたジョッキグラスを掲げると、彼女も掲げた。

 

「誕生日おめでとう」

 

 僕達は、静かにグラスを合わせた。

 

「ありがとう」と、彼女はもう一度笑顔を見せて、美味しそうにビールを飲んだ。

 

 

 僕がグラスを置くと、「どんどん飲んで、どんどん食べてね」と彼女が言った。

 

「どうしたの?」

 

「このお店、23時半までなんだって」と、目を合わせずに、静かに言った。

 

「誕生日までいられないんだね」と僕が言った。

 

「うん…。だから、早く飲んで、早く食べて、どんどん言ってくれないと間に合わなくなっちゃう」

 

「どんどん言う?」

 

「私のどこが好きか100言って」…そう言うと、いたずらに笑った。

 

 僕は「なるほど…」と言って、「オーケー。100と1つ…101言うよ」と、笑った。

 

 

……次回のVol.47『100と1つ』Episode.2に続きます。