『簡単な土曜日』
昨夜は深い時間まで、戴き物の紹興酒を飲んでいた。いつもより、少し酔った。
ここのところの寝不足と相まって、今朝は普段より遅くまで寝ていた。まぁ、睡眠負債の返済を考えて、そうしようと思っていたのだけれど…
ベッドを出ると、妙に頭がスッキリしていた。
買い替えて間もない、デロンギの新しいコーヒーメーカーで、友人からシンガポール旅行の土産にもらった、ラッフルズホテルのコーヒーを入れた。
スポーツ新聞にざっと目を通してから、コーヒーを飲んで、日経を読んだ。
二杯目のコーヒーを入れて、Netflixで今週の『チェンソーマン』を視聴した。それから録り溜めていた一週間分の朝ドラ『舞いあがれ!』を観た。
朝ドラを観たら、back numberの『アイラブユー』をフルコーラスで聴きたくなって、アップルミュージックで流した。ついでに『ヒロイン』と『クリスマスソング』を聴いた。
気付いたら、半分ほど残ったコーヒーがすっかり冷めていて、時計は13時を回っていた。お腹も空いていた。
いつも食パンを買っていたお店が先月末で閉店してしまって、ストックも残っていなかった。
近所にある菓子パンが美味しい老舗のパン屋さんに行こうと、昨日までのストールではなく、今年初めて厚手のウールのマフラーを首に巻いた。
外に出ると、そこはもう疑いようもないほど、12月だった。なんだか、空がキラキラしているような気がした。
キラキラ?
なるほど…ここまで筆にして、やっと気付いた。
先日、Instagramで『キラキラ』と、12月をそう筆にした。
それまでの、“戴き物の紹興酒”も“新しいデロンギ”も“友人のシンガポール旅行”も…
『チェンソーマン』や『舞いあがれ!』に、back numberの『アイラブユー』も、果ては“近所のパン屋さん”まで…
先月までに、全てTwitterで何気なく文字にした言葉達だ。
少し遅く起きただけで、何も変わらない、いつも通りの土曜日…
やれやれ…
日常とはそんなものなのだろうか?
SNSで何気なく文字にするような言葉だけで、僕の土曜日は、簡単に出来上がってしまう。
『1993年とブラボー!』
薄明かりがアスファルトに溶け、窓から微かに漏れる朝…「ブラボー!」の雄叫びが、遠い中東の地から、日出ずる国にこだました。
声の主は、サッカー日本代表DF長友佑都選手だ。今朝行われたサッカーW杯強豪スペイン戦の勝利後に、インタビューエリアでそう叫んだ。
試合を中継したTV局のアナウンサーは、昨日発表されたばかりの「流行語大賞」に絡めて、「ブラボー、流行語大賞間に合うかな~?」と笑った。
実際のところ、「ブラボー」は今回、時既に遅しで、残念だったけれど、今朝のスペイン戦の、或いは初戦のドイツ戦における、この“ブラボー”な結果は、1993年の「流行語大賞」抜きには語れないと、個人的には思っている。
そう、その年のそれは『Jリーグ』だった。
メキシコオリンピック銅メダルを初め、Jリーグ発足前から、日本サッカーの伝説もあれば、先人達もいる。今でこそ、サッカー日本代表選手の多くは、Jリーグではなく、海外の名門リーグで活躍するに至っている。
それでも、1993年のスタートから、来年30周年を迎えるJリーグが、今朝の『ブラボー!』の礎を築き、道標となったと…感じている。今朝のドラマは1993年に始まっていたと…感じている。
知らんけど(←今年の「新語・流行語大賞」トップ10に選出)ww。
さてさて、来たる12月5日の日付変わって24時…ノックアウトステージ初戦となるクロアチア戦のホイッスルが鳴る。
長友佑都選手は、「次はもっとどでかい声でブラボー言ったるからな」とTwitterにて予告した。
次戦に勝てば、ワールドカップにおいて日本史上初のベスト8進出となる。
新たな歴史が生まれるか…“ブラボー”以上の結果が出るか…
1993年の流行語大賞が、29年の歳月と共に織りなす今を、日本サッカーの今を、雄叫びを必死に抑えながら、この日出ずる国にて…見守りたい。
『5分』
昨夜、ベッドに入る直前になって、ややこしい事が起こり、今朝は少しだけ起きるのが遅くなってしまっった。つまり…寝坊をした。
何とか取り戻そうと頑張ったけれど、無理だった。今日の予定は、脆くも音を立てて崩れ、もうどうすることもできなかった。
「あと10分…いや、あと5分だけ早く起きていれば…」
時に、そのたかだか“5分”が、些細な歯車を狂わせ、良きにせよ悪きにせよ、思いもよらぬ物語を紡ぐことがある。
恋人達の運命の出逢いを、前代未聞の歴史に残る事件を、或いは、スポーツの奇跡的な瞬間を…
日付が変わり、間もなく…サッカー『ワールドカップ2022』日本vsスペインの大一番が始まる。
今大会は、アディショナルタイムが長く取られる傾向にある。この試合も5分以上のそれが取られるかもしれない。
今日は、その残り時間“5分”を、どのような心持ちで迎えているだろう。「審判、早く試合終了の笛を吹いてくれ」なのか…それとも「まだ、笛を吹かないでくれ」なのか…
もちろん、前者の“5分”を望んで…歓喜の笛を望んで…心の声を枯らしたいと思う。
ただ、試合終了後にウトウトして…寝坊して…歓喜の一日を台無しにしないように、細心の注意を払いたい。
いずれにしても…
その“5分”という時間は、ひどく儚く、ひどく大きい。
『キラキラ』
ふと気付けば、今月も残すところあと2日となった。火曜日、水曜日が定休日の当店にとっては、本日が今月最後の営業となり、次に暖簾を掲げる時には12月を迎えている。
12月を迎える…だからといって、何かが大きく変わるわけではない。よっぽどのことが無ければ、おそらくこの世界はこの世界だし、当店は当店だし、あいも変わらず、僕は僕だ。
平和ボケしていると言われたらそれまでだけれど、今のところ、それに越したことはない。
ただ…僕だけだろうか?それでも何故か、12月は特別なような気がする。
何があるかと言えば…
今年に限っては、サッカーW杯のノックアウトステージが行われる。僕は一泊旅行に出掛ける。例年通りに言えば、忙しさに追われながら、イエス・キリストの誕生日があって、紅組と白組が歌を競い合って、108回に向かって鐘が撞かれ始める…。なんのことはない。
やっぱり、この世界はこの世界だし、当店は当店だし、僕は僕だ。
ただ…よっぽどのことが無ければ…
12月はキラキラしている。
クリスマスに、イルミネーションに委ねるところはあるにせよ、コンビニも、車の流れも、乱雑する看板広告さへも、街を構成するありとあらゆるものが…何だか、キラキラしている。忙しいながらも、どこかそれに心弾みながら、一年最後の日を、その次の新しい一日を、心待ちにしている。
12月はやはり特別だ。キラキラしている…
そして今のところ、それに越したことはない。
『まだまだね』
昨日は、混み合う新宿を避け、近くの髙田馬場で友人と食事をした。
相手が西武新宿線沿線に住んでいるため、この辺りで会うことにしたのだけれど、高田馬場駅で降りるのは、ひどく久しぶりだった。この友人と会うのも夏の初め以来だった。
お互いに、お店もまるで分からないので、僕がグルメサイトで適当に見つけた鳥料理のお店を予約していた。
ただ、街もお店も関係なく、ビールを頼んで、お互いに初めの一杯を飲み干すと、いつも通りの僕達の時間が始まった。
鳥肉のリエットをフランスパンに乗せてほうばると、友人は「久しぶりに、笑い過ぎてお腹痛い」と柔らかな笑顔を見せた。そしてゆっくりと、ワインを飲んだ。
二時間はあっという間だった。
予約したそのお店は、個室での予約は二時間制だった。初めから、一軒だけの約束だったため、名残り惜しいまま、会計を済ませて店を出た。
駅まで歩いている間、友人は一言も話さなかった。
改札口に着いて、やっと口を開いた。
「明日のサッカー、どっちが勝つと思う?」
「もちろん、日本が勝つさ」と僕は言った。
優しく、でもいたずらに…
「まだまだね」と彼女は笑った。
そして、手を降りながら改札を後にした。
実は店の中でも、僕は彼女に一度、「まだまだね」と言われていた。その時の彼女の質問と僕の答えは、ちょっと…内緒にしたいのだけれど…
いずれにしても、今日のサッカーW杯『日本vsエクアドル』の試合終了のホイッスルを聞いて、昨日の改札で、少しづつ小さくなっていく友人の後ろ姿を思い出しながら、僕は…
「まだまだだな…」
自分自身に、そう呟いた。