「ぼくらは決して大人を恐れやしないが、大人になった自分に対しては恐れを抱く」
あの夏の終わり
手に取った小説にあった言葉…
僕は二十歳になろうとしていた
あれから
幾重にも夏は秋に染まり
僕は今
何を恐れているのだろう?
答えのないまま
花瓶の中で
ひまわりが黄昏れていた
何処かで花火が鳴った
「ずっと、こんな風に続いていく…」
友人が言った
ウチの店で飲んでいた
「ガキの頃、焼鳥を頂いて、ここでラムネを飲みながら…そう思ったんだ」
もう一度花火が鳴って
消えた
酔い醒ましにと
母に頼んだ
「ラムネを二本」
世界は…
一瞬と永遠で出来ている
改札まで送った
彼女は最後まで
“何か”を話さなかった
それで良かった
「急いじゃだめだよ」
彼女は頷き
「でも…休まないわ」と笑った
仲良くなったあの夏
彼女がよく口にしていた…
Without haste, but without rest.
急がずに、でも休まずに
改札の先で
新しい夏が始まっていた
クリスマス…
ある事情から
別の名で生きる少女が
彼に贈ったプレゼントは
本当の名前だった…
そんな映画を観たことがある
名前とは大切なものだった
SNS時代
互いにそれを知らないまま
繫がっている
代わりに
何を贈れるだろうか?
探そう
名前を知らない誰かに
想いを馳せて…
熟れるような電車内で
男の子が僕を見ていた
彼は
ヨット柄のTシャツに
シアサッカー地の半ズボン姿で
座席の下には
空色のサンダルが並んでいた
すぐに飽き
彼が窓に向き返った瞬間
首筋を走る汗が光に反射した
夏だった
夏が僕を捉えた
ジャケットを脱いだ
電車は目的地へと急いだ