2023-02-13 22:30:00

『甘い一日』

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 いたずらな冬の雨が、右肩を濡らした。冷たく、重く、濡らした。小さな傘が、遠い距離が、もどかしい。でも、それでいい。この肩だけが、いくらだって濡れればいい…

 

 いつの時代も、男なら?そんなふうに思える時が必ずある。なんて…

 

 ……今日は、雨の一日だった。週初めの月曜日からあいにくの天気というのは、やはりちょっとだけ、憂鬱な気分になる。

 

 風も少しだけあって、どんなに慎重に傘を差していても、歩けば歩くほど、雨はコートの黒をより色濃くした。

 

 気分の晴れないまま、全ての用事を済ませた。もう、家に戻るだけなのだけれど、なんだか少し憂さ晴らしがしたかった。何より、コーヒーでも飲んで、暖まりたかった。

 

 お気に入りの喫茶店でゆっくりするほどの時間は無かった。

 

 それならばと、昨日行ったコーヒーショップに立ち寄る事にした…

 

 ……昨日より遅い時間とはいえ、週初めの月曜日だというのに、夕刻前の日曜日よりも、店は混んでいた。

 

 昨日の昼下がりは暖かく、やけに喉が乾いていたので、久しぶりにアイスコーヒーを飲んだけれど、今日はもちろん、ホットコーヒーをオーダーした。昨日とは違う、外が覗ける席に座った。

 

 今日は、日経の朝刊は休刊日だったので、電子版の夕刊にざっと目を通した。コーヒーは思った以上に僕を暖め、そして少し気分を晴らしてくれた。

 

 イスタンブールからの記事を読み、次の記事に目を通し始めた時だった。少し大きな声がした。「大丈夫」と聞こえたような気がした。

 

 目をやると、空席を一つ挟んだ隣の席に、制服姿の二人の女子高生が座っていた。

 

 一人の女の子が、向かいに座る女の子のアッシュグレージュの髪の毛を触りながら言った。

 

「世界で一番かわいい」

 

 そして、二人は店を後にした。

 

 もう一度、記事を読もうとした時に、ふと日付けが目に入った。

 

 そうだった。明日は2月14日だった。

 

 新聞のアプリを閉じて、天気予報を見た。

 

 冷めてしまったコーヒーを飲み干し、僕も店を出た…

 

 ……明日はバレンタインデー。世界で一番かわいい女性達が、世界で一番大切な誰かに、世界で一番甘い想いを伝える。

 

 色とりどりの想いが伝わり、結ばれ、暖まればいい。

 

 予報では、この街は明日、晴れて日差しが届くとのことだ。どうやら、この街の男の右肩が濡れることはなさそうだ。

 

 週初めの月曜日、この街は雨の一日だった。ただ、明けて火曜日は、どこまでも甘い一日になるかもしれない。なんて…