2022-11-26 22:30:00
『みだれ髪』
残りのマスクが心許なくなってきたのを思い出して、近所のドラッグストアに買いに行った。帰り道にふと、聞き覚えのある歌が耳に迷い込んできた。
近くで営業するスナックから、カラオケと女性の声が漏れていた。
昔の歌だけれど、聞き覚えがあった。何だか気になって、店の前の自販機の脇で耳をそばだてていると…鮮明に思い出した。
美空ひばりさんの『みだれ髪』という歌だ。子供の頃、親戚で集まると、歌の上手な叔母が決まってカラオケで唄っていた。
聞いていたのは子供の頃のはずなのに…歌詞まで思い出した。“好きなフレーズ”まであった。
歌は哀しく静かに流れ…知らない女性の漏らす声が、クライマックスに差し掛かかった。そしてしっとりと、それを唄った。
♪春は二重(ふたえ)に 巻いた帯
三重(みえ)に巻いても 余る秋♪
「春に痩せ、秋にはもっと痩せてしまった」…それを、“痩せた”という言葉を使わないまま、さらには背景の辛さや哀しみまで匂わせながら、聞く者に伝える…
愛や夢や自由や希望と、綺麗な単語で埋め尽くされた歌詞とはまた違った、日本語らしさ香る…素晴らしい歌詞だと思う。
と…すっかり、自販機の物陰にいる怪しい近隣住民になってしまった…
いやいや、次は俺が明るく盛り上がる歌を!!…そう陽気に登場したいところだけれど、あくまでも“個人的”には、カラオケはもう少しだけ我慢かな?なんて…
買ったばかりのマスクの箱を握って、家路を急いだ。
秋が過ぎても、僕達にはまだ…冬が続く。